2016年4月。電力小売の全面自由化により、一般家庭や小規模商店なども電気を選べるようになった。この大きな時代の転換期、他の通信キャリアに先んじて小売電気事業者登録を行い、当該事業を推進しているのがKDDIだ。利便性の高い電気サービスをお客さまに提供すべく、ビッグプロジェクトを牽引していった中途入社者の奮闘に迫る。

「全国展開」という英断。

2016年1月19日。テレビCM「三太郎」シリーズのキャストを迎え、盛大に開催された『auでんき』発表会の傍らで、プロジェクトメンバーは安堵感に包まれていた。「スケジュールはタイトだったが、この日までに何とか良いサービスを設計できた」。
KDDIが電力小売事業への参入を決めたのは、前年の秋。プロジェクトには、「65年ぶりの電力市場開放にプレイヤーとして関わりたい」「新規ビジネスの立ち上げに自身の力を活かしたい」と意気込む中途入社者が、何名も加わっていた。事業戦略の立案に関与した村田崇も、そうした中の一人だった。
新規事業を始めるにあたり、まず決めねばならないことに電気の供給エリアがある。このエリア。収益性を第一に考えるなら、採算のとれる大都市圏に限定するのが常道だろう。だが、村田崇たちが下した結論は、物理的に電気の供給が難しい沖縄県と一部離島を除いた「全国」で、サービスを提供するというものだった。「そもそも我々がなぜこの事業をやるのか、といえば、それは幅広いお客さまにauでんきを使っていただくため。ならば、エリアは全国。そこは外せませんでした」。お客さま第一のポリシーが、敢えて茨の道を行く英断に結びついたのだ。

アライアンスを拡大せよ!

村田崇たちが固めた全国展開の方針に基づいて、提携交渉の一翼を担ったのが山本剛だ。「北海道から九州まで、各地域の一般電気事業者やエネルギー関連企業を訪問し、当社と手を組んでいただくための提案活動を行いました」。
小売電気事業者であるKDDIは、業務提携抜きでも電力を小売できるが、この事業で先行している一般電気事業者(電力会社)などには各地域での信用や卓越したノウハウがある。そのため山本剛は、提携を通じて事業基盤をより強固なものとすべく、両社WIN WINの関係構築を目指し、折衝に臨んでいた。
しかし、「自由化後の市場はどうなるか?」。先方も手探りの状態ゆえ、意思決定にはどうしても時間がかかる。山本剛の全国行脚も長期化していたが、粘り強く交渉にあたった。彼は交渉を通じての思いをこう話す。「電力の小売自由化という誰もが未経験のステージを迎え、皆が不安と期待の中で次の一手を構想しようとしています。KDDIを何かのきっかけにして一緒にお客さまに良いサービスを提供していきたいとの強い思いを持って、これからもアライアンスの拡大に尽くしたい」。

誰でも「安く」、「分かり易く」。

山本剛が提携交渉に汗を流していた頃、企画担当の村田正徳も熱い議論の渦中にあった。議題は、「auでんきアプリ」と料金、サービスである。
「電気は見えない商品のため、お客さまは会社選びが難しい。そこで付加価値となる部分の企画検討を私たちが進めていたのですが、方向性が定まるまでには紆余曲折がありました」。例えばアプリの機能やコンテンツの数、内容をどうするか。有償とするか、無償とするか。アプリ以外の付加サービスをどうするか。お客さまに価値を提供する方法は無数にある。喧々諤々と続くミーティング…。
結果導き出された方針は、分かり易い電気の見える化アプリに注力し、暮らしに資する省エネ情報を併せて提供するというものだった。「お客さまにとっての分かり易さを追求するために、初期の機能・サービスを絞り込み、すべて無償で提供することに決めました」。そして各種の手法を緻密にシミュレートしたうえで、au WALLETプリペイドカードへキャッシュバックするというメリットの供与方法を選んだのだ。

その日に向けた総力戦。

こうして事業の骨格が定まった2015年の年末から、プロジェクトは佳境に入る。村田正徳は料金プランなどの確定へ、山本剛は今回のスキームに合わせた電気供給約款の作成へ、村田崇は事業計画(数値目標など)をまとめて経営層に諮るべく、邁進していった。auでんきの発表会は1月19日、申し込みの受付開始は翌20日に迫っている。残された時間は短い。メンバーたちは連日、夜を徹して任務に挑み、社内各部の手厚い支援も受けながら、文字通りの総力戦で発表会のその日を迎えたのである。
そして2016年4月1日には、auでんきのサービスがスタート。村田崇によれば、「ご好評をいただいているものの、今後もお客さまに資する『auライフデザインサービス』として改善していく」とのこと。auでんきの真価が問われるのはこれからだ。より多くのお客さまに選ばれるために、メンバーたちはそれぞれの持ち場で次なる構想を練っている。山本剛いわく、「KDDIの強みを活かし、スマートメーターのデータからお客さまのライフスタイルを把握していけば、新たな商品・サービスの提案もできるでしょう。電気からどんなビジネスが派生するか、想像力が掻き立てられますね」。
他方、「これからもチーム一丸となって、一般電気事業者の方々との協力関係を広げながら、お客さまへより良いサービスを提供していきたい」と語るのは村田崇だ。彼は今、電気事業の収支管理に係る仕組みづくりを進めつつ、エネルギー分野の新プロジェクトに参画中。事業領域の拡大を図るKDDIで、彼らのダイナミックな挑戦はこれからも続いていく。