私たちの身のまわりにある電化製品。それらの電力を制御し、省エネ化を実現するキーとなるのが、パワーデバイスです。
三菱電機 先端技術総合研究所は、世界に先駆けてパワーデバイスの研究開発を行ってきました。現在は、従来のSi素材から、より高い省エネ性能が期待されるSiC素材を使った次世代のパワーデバイスを開発しています。
低炭素社会の実現のためにSiCの可能性に挑む、SiCパワーデバイスの研究開発チームにインタビューを行いました。
  • 田中 梨菜(左)
    2010年新卒入社。学生時代は物理学を専攻。
    さまざまなバックグラウンドの研究者がいるところに魅力を感じ、三菱電機に入社。入社以来SiCを研究。
  • 菅原 勝俊(右)
    工学博士。半導体材料の研究員を経て、中途入社。
    企業での研究に興味があり、三菱電機に。
    太陽電池の材料開発を経て、2013年にSiCへ異動。

多様なバックグラウンドを持つ研究者が集う。

菅原:学生時代はSiGeを研究。博士号を取得しました。その後、大学の非常勤研究員を経て、企業で研究に従事したいという想いから三菱電機に入社。先端技術総合研究所で働くことになりました。私も妻も東北出身で、研究所のある関西とは無縁の生活を送ってきたため、移住に少なからず不安はありましたが、住めば都。研究所の入る伊丹製作所は都市部にあるため非常に便利です。通勤圏の中には都市部だけでなく閑静な住宅地もありますので、暮らすという点でも幅広い選択肢があります。住み慣れた今では関西の方が自分に合っていると思うくらい、この場所を気に入っています。

田中:新卒で三菱電機の先端技術総合研究所に入社しました。当研究所を志望したのは、機電系のみならず、化学や物理など、さまざまな分野の出身者が活躍できるフィールドがあるからです。物理を専攻していた私にとって、電機業界は狭き門。そんな中で自身の専門分野を活かすことができ、さらに多様な知見を持った研究員とともに先端技術の研究ができる環境には大きな魅力を感じました。

先駆者として、パワーデバイス開発をしてきた歴史。

菅原:私たちふたりは同じチームでSiCパワーデバイスの研究開発を行っています。一般に、パワーデバイスの素材にはSiが使用されてきましたが、先端技術総合研究所ではさらなる性能向上を実現するために、Siよりも高い電圧に耐え、かつ電力損失が発生しにくい特徴を持つSiCに着目。1990年代前半より、他社に先駆けてSiCパワーデバイスの研究開発に取り組んできました。そして、2010年には世界で初めて製品への搭載を実現。以降も鉄道車両へ搭載(※)するなど、世界に先駆けてさまざまな製品への実用化を行ってきました。フルSiCモジュールの実用化に成功しているのは、現在(2017年8月時点)でも三菱電機のみです。
私たちのミッションは、20年もの歳月をかけて実用化へとこぎ着けた先人たちの努力の結晶を、さらに進化させること。性能の向上はもちろんのこと、普及へのネックとなっている信頼性を両立させるべく研究に取り組んでいます。

※第48回 市村産業賞 功績賞を受賞
3.3kV フルSiC モジュールを鉄道車両用推進制御装置に世界で初めて適用し、大幅な省エネと装置の小型化を実現したことが評価されました。

研究のバトンを、未来へとつないでいく。

田中:私たちが次世代技術として力を注いでいるのが、トレンチ型SiC-MOSFETです。従来の平面型に比べ、トレンチ型には、電力損失が少なく省エネ性が高い、デバイスを小型化できるなど、さまざまな利点があります。一方、信頼性の面では平面型に劣るというデメリットもありました。省エネ性や小型化を追求すれば、信頼性が下がる。この背反する課題を解決するために、私たちは約1年間、このテーマに重点的に取り組みました。結果、これまでブラックボックスになっていたメカニズムの解明に成功。大きな電流が流れた際に、素子が長い時間耐えうるにはどうすればいいかを突き止めました。私はこの研究でパワー半導体デバイス国際シンポジウム(ISPSD)2014 シャリタット・アワードを受賞しました。
省エネ性や小型化と高い信頼性を両立できる、高性能な次世代パワーデバイスの開発を進め、SiCの普及に貢献していきたいと思っています。

総合電機の強みを活かし、社会に役立つ技術をつくる。

菅原:先端技術総合研究所が世界をリードできる要因のひとつは、開発部門や製作所のメンバーと意見を交わしながら研究に取り組めるところにあります。さらに、総合電機メーカーである三菱電機は、事業フィールドが広大。家電から鉄道車両など、SiCパワーデバイスを必要とする最終製品の開発も自社で手掛けています。そのため、意見を交わすのみならず、製品をつくる各製作所と連携を図りテスト実装を行うことも可能。世界に先駆けて製品化を実現できたのも、このような企業基盤があるからでしょう。また、失敗を恐れずにチャレンジできる風土も、大きな要因のひとつだと思います。

田中:育休や産休などの制度も使いやすく、子供がいても仕事を続けられるところも当社の魅力です。私自身も産休・育休を経て復職。現在は時短勤務をしながら研究開発に取り組んでいます。今はまだ家事と育児と仕事の両立に少し苦戦していますが、周囲のみなさんの温かいサポートのおかげで仕事を続けることができています。今後は今以上にうまく両立を図り、組織にも貢献していきたい。そして、自らの手でキーとなる技術を生み出すことが目標です。